鈴木は、ちら美と同期入社の同僚だ。鈴木は気が弱そうで普段は無口だが、時折、店や企業に対して激しく苦情を言うような、そんな男だった。

ある朝、ちら美は、朝の通勤電車で、鈴木を見かけた。

(ああ、同じ線だったっけ・・・。)

存在感の薄い鈴木のことを、あまり気にもとめていなかったちら美だったが、彼の自宅が自分と同じ路線だったことを思い出した。

鈴木は、満員電車の中で、携帯電話を見つめながら、何やら笑みを浮かべていた。電車が軽く揺れるたび、その携帯電話が、鈴木の目の前の中年の男の背中に当たった。中年の男は、眉間にしわを寄せながら、何度が鈴木の方を振り返ったが、鈴木は一向に構う様子もない。

「おい。」

中年の男は、耐えきれず、鈴木の方を振り返ると、そう言った。しかし、鈴木の反応は、男の想像していたものと全く逆のものであった。

「はぁ?!」

鈴木は謝るではなく、むしろ不満を顕わにした。

「さっきから当たってるんだよ。」

中年の男はやや興奮気味にそう答えた。しかし、鈴木は迷惑をかけている認識がない。

「なんだぁ、てめぇ!」

普段の鈴木からは想像もつかない言葉である。まわりがざわざわし始め、つかみ合いを始めた二人の男は、次の停車駅で降りた。


(いきなりキレるんだもんな・・・。)

ちら美は、現代人によくあるこの行動が、いまひとつ理解できなかった。



その日、ちら美は割と慌ただしかった。ランチに出ている時間もないので、買い置きのカップラーメンで昼食をすませるべく、スープの素の封を切ろうとしていた。そのスープの素は、切り口に切り込みを入れてあるタイプのものだったが、ちら美は、うまく封を切ることができず、角の部分を切り取った状態にしてしまった。(あ、しまった・・・。)デスクにはさみをとりに行くのも煩わしく、ちら美は、犬歯で引きちぎるべく、悪戦苦闘をした。そして、なんとか開封しきった時、ふと横を見ると、近くで、鈴木もカップラーメンの用意をし始めていた。鈴木のラーメンのスープはマジックカットのタイプのものである。鈴木は、特に手を汚すことも無く、スープの素をカップにあけた。それを見ていた、ちら美は、こう呟いた。

「さすが鈴木君。」

(・・・?)

「どこからでもキレるね。」

そういうと、ちら美は、そそくさと、赤いきつねを自分のデスクに持っていったのだった。



その日、ちら美は、返却期限が今日までのレンタルDVDを明日返すことにした。

コメント

不知火
2011年4月5日10:00

ちら美さん、キター!(≧∇≦)
お帰りなさい。

大根(おーね)
2011年4月5日11:45

(∂_∂)/タダイマ

けいりょう(KR)
2011年4月5日12:32

そろそろ自費出版して下さい!
出すのは自由なはず?
秋葉原チェルモ書店に並べてもらおう。
あ、ぶんぶくの方が書店っぽいかww

大根(おーね)
2011年4月5日12:37

あれか。ダウンロードしてタブレットで見るやつにするか。
カルバドスだかゴルバチョフだかガブリアスだか。

あいうえお
2011年4月5日14:41

モンスターちら美ですね(笑)!

大根(おーね)
2011年4月5日14:52

(∂_∂#)シツレイシチャウ

そらいろ
そらいろ
2011年4月5日17:34

やはりヨシズミは作戦だったのか( ̄ー ̄)
ニヤけた鈴木の携帯の中身は!?続々に期待(・∀・)/

大根(おーね)
2011年4月5日17:55

(∂_∂)ノシ (ヨロシクネ

jyutomo
2011年4月6日2:48

あ、新シリーズだ。

やはりダジャレは師匠に学ばなくては。

大根(おーね)
2011年4月6日9:26

(´A`)/(オシエルコトハ、モウナニモナ・・・(_  _)_(ガクッ

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