通勤電車に乗ろうとしたその時、偶然目に入った人物に、ちら美は、一瞬目を疑った。一つ離れたドアから、山本が乗り込もうとしていたのである。


山本は、ちら美の所属する営業三課の課長である。理屈っぽく、人を追い詰めるような話し方をするタイプだ。つい昨日も、ちら美に対して、ミスとも言えないようなミスを指摘し、延々と説教をしたばかりだった。


(課長の家は、この路線じゃないはずじゃ?)

不可思議に思ったちら美は、電車に乗り込んだ後、しばらく遠目に、山本の方を見ていた。しばらく見ていると、山本の前にいる女性の様子がおかしいのに気づいた。どうやらその女性に対し、山本が迷惑行為をしているようである。

(あのエロジジィ・・・。)

ちら美はどうにかしようかと思ったが、山本の位置からは距離もあり、はっきりと動作が確認できているわけでもなく、傍観するしかなかった。と、その時、

「やめて下さい・・・。」

その女性が勇気を出して、声を上げたのである。山本は一瞬(げっ!)という顔をしたが、すぐに、(何だ、どうした?)という表情に変わり、回りにいた人間も状況が良く呑み込めていない様子だった。そして、全く悪運が強いのか、次の瞬間、ドアがすっと開き、山本は、特段慌てもせず、恰も、人の流れに押されやむを得ないかのうように電車を降りた。そして、走りはせず、しかし、非常に速やかな足取りで人ごみをかき分け、女性やその回りの人間がどうしようもないまでの距離まで離れると、そこから先は、猛ダッシュをしたのだった。



会社に着いた山本は、心なしか疲れている様子である。ちら美は、滅多に入れない珈琲を入れ、山本の席に運んだ。

「課長、お疲れのようですね。通勤が大変なんじゃないですか・・・。」

その意味有り気な声の調子に、山本は、不自然なものを感じた。

(ん?)

そして、ちら美はそっと珈琲を山本の前に差出し、こう言った。

「無理な通勤をなさると・・・・・・、からだにさわるんじゃないですか。



その日の帰り、ちら美は、立ち寄ったコンビニのレジ横の募金箱に、思い切って、五十円玉を入れてみた。



―あとがき―

早いもので、「ちら美の一日」を連載し始めてから8年が経ちました。ここまで続けてこれたのも、ひとえに読者の皆様、そして、編集担当やその他スタッフの方たちのお陰です。今後の次回作には期待しないで下さい。このへんでカンベンして下さい。てか、日記じゃなくね?

コメント

草系
2011年2月23日19:03

えっ、最終話なんですか?
楽しみにしてたのに・・・
きっと「~~リターンズ」で帰ってくるんですよね??<無茶ブリwww

pkpkMoe
2011年2月23日19:24

平日ジムチャレしたら終電逃して,適当なとこに泊まってたため,変な方向なのかと思ったらぜんぜん違った

大根(おーね)
2011年2月23日20:28

>草系さん
これからはポケモンのツヨーイ人のブログを楽しみにしましょう。

大根(おーね)
2011年2月23日20:31

>pkpkさん
で、僕は何をすれば?

もへじ
2011年2月23日20:31

はじめまして。
群馬でポケカしてます『もへじ』です。
ちら見ではがまんできなくなりましたw
リンク頂きます。

大根(おーね)
2011年2月23日20:58

>もへじどの
おおー、お上手。では、こちらからもリンクをいただきまして、ガン見させていただきます。

パパギガスz
2011年2月23日21:09

読者アンケート
ちら美の一日が毎日の楽しみでした。
私の青春を返してください。

大根(おーね)
2011年2月23日21:26

>パパーギガスさま
青春は、とっくに終わってたでしょ。

けいりょう(KR)
2011年2月23日22:28

もったいないw
そろそろ出版社からオファーがくるところだったのに!(笑

新作期待してます!!

大根(おーね)
2011年2月23日23:07

>けいりょうにいさん
その期待、裏切ります!

不知火
2011年2月23日23:24

「ちら美」シリーズ、大変楽しかったです。
日記のクオリティをはるかに超えていましたww

お疲れ様でした。

大根(おーね)
2011年2月23日23:44

>不知火さま
今までどうもありがとうござました。またどこかでお会いできる日を楽しみにしております(引退か!

そらいろ
そらいろ
2011年2月23日23:48

ふむふむ。次はヨシズミの番だな、うん、きっと、そーにちがいないw

大根(おーね)
2011年2月23日23:56

>そらいろにいさん
その予想、シャレになんないっす。

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